≪母の日≫

 今年もその日がやってきた。

そう、“母の日”である。

いつから“母の日”に贈り物を始めたのか、記憶にない。

きっと、結婚してからだと思う。

義母と実母は同じ歳、誕生日も一日違い。

毎年、同じものを妻と相談して贈ってきた。(実際は、妻が提案してくるのだが)

 しかし、今年は違った。

4月末、田舎の実父に連絡したついでに、「母へのプレゼントは何がいいかな?」と相談したら、「お前に買ってほしいものがあると言っていたよ」と笑っていた。

母に直接聞いてみると、なんと「釣竿」がほしいという。

 私の田舎は、長崎県の北部に位置する離島(対馬)。

その北西部に位置する、戸数20戸足らずの半農・半漁の小さな村である。

ご多分に洩れず、住民の多くが高齢者。

母も今年8月で78歳になる。

母の趣味は、釣りとゲートボール。

釣りは磯からではなく、足場が安定している防波堤からだが、時たま小舟にも乗せてもらっているようだ。

今回の要望は、先にも書いたが「釣竿」。

それも長さは、5.5メートル、そして、軽量。

さらに、竿先には硬度が欲しいという。

持ち手の部分は、小さな手のひらでも握りやすい細身のほうがいいという。

握り部が太いと、大きめの魚が釣れた時、相手の抵抗に握力がついていかないらしい。

母の釣果のおかげで、毎年、何度も「クール宅急便」が我が家に届く。

これはありがたいが、無理もしてほしくない。

かといって、好きな趣味を「危険」という理由で取り上げたくもない。

母はこの時期、毎朝4時に起きて防波堤までバイクで出かける。

そして、日の出とともに帰宅する。

バイクの後部には、ポリバケツと中に釣りあげた魚がいっぱい。

防波堤からの釣りだから、「鯵」などの小物がメインだが、たまに、一人では手に負えないような大物も、手伝ってもらって釣りあげるらしい。

何度か我が家の食卓にも上っている。

殆どは、父と母が食する分を料理し、残りはご近所へという構図らしい。

 今年は、“母の日”の直前に、両親が我が家に滞在していたので、釣具店に連れて行き自分で選ばせた。

最初は、安価な釣竿を物色していたが、私が店員さんと一緒に探した少し高価な釣竿を示すと、遠慮がちにも「それがいい」と言って喜んでいた。

私が「もう次の釣竿は無いから、高価な竿をプレゼントするよ」と言ったら、笑っていた。

 今年のお盆も帰省するが、母と釣りに行くのが今から楽しみである。

年々、足腰が弱くなっているのが目につく。

そんな母に、妻は、サプリメントや暖かい下着、ダウンジャケット等を贈ってくれている。

今年の夏はまだ、どちらが多く釣ったか、競争できそうである。

いつまでも、大きな笑い声と笑顔を見せてほしいと願わずにはいられない。