≪懐かしい思い出≫

 事務所の片隅に、クルクル巻かれ、輪ゴムで止められた地図が立てかけられている。

今は、めったに開いて見ることも無くなった地図である。

この地図は、滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県のほぼ全域を表している。

各地域の地図を購入し、重なる県境部分を切り取って貼り合わせ、一枚の大きな地図にしたものだ。

 私は、2007年4月から、大津市にあるコラボしが21の4階、「創業準備オフィス」に入居させていただいた。

6ヶ月間の入居期間中、私は創業に向け事業内容のパンフレットを作成しながら、滋賀県内にある7ヶ所の商工会議所等を訪問し、営業活動を展開していた。

県内7ヶ所の商工会議所には、その年のうちに3回訪問した。

同時に、大津市の創業準備オフィスを中心にして、車で移動できる半径1時間のエリアをこの地図に書き込んだ。

高速道路が利用できるところと、そうでないところがあるため、そのエリアは“円”にはならなかった。

 私は、このエリア内に存在する資本金1,000万円以上の製造業72社をピックアップし、地図上に青色の丸い小さなシールを貼った。

(もちろん、大企業、中堅企業は除いた。)

製造業の中でも、私が得意とする組み立て業や機械加工業を中心に選んだ。

 ここから私の営業活動が始まった。

私は、効率的な移動距離と時間を考え、一日に数社づつ、アポイントも無しで訪問を開始した。

最初、電話で事前にアポイントを取り訪問していたが、殆どの場合、電話口で訪問を断られた。

実績も名声も、何にも無いのだから当然である。

 しかし、電話口で断られると、資料を見て頂くことも出来ないことに気付いた。

突然の訪問でも、上手くいけば責任のある方々に会っていただくことが出来る。

また、上手くいかなくても、資料は置いてくることが出来ると考えた。

私は、以後、ノーアポを敢行した。

 訪問した企業は、地図上の青色シールの横に黄色のシールを、少し重ねて貼った。

訪問した中で遠い会社は、東方では長浜市のA社、西方では伊丹市のB社、京都北部のC社、南部では京田辺市のD社と、結構広いエリアになった。

 結果は、『72戦0勝72敗』・・・勝率0%という、表題の通りである。

守衛の方がいる会社では、ここより中に入ることは出来なかった。

資料は受け取って頂いたが、責任者の方々の目に留まったかどうかは、はなはだ疑問である。

直接、社長や専務と言う肩書きの方々と、お話しできたことも数回あった。

 しかし、そこで終わりである。

最も、私の方も同じ会社を再訪問していない。

 しかし、この敗北を重ね続けた数ヶ月間は、今では良い思い出である。

何処に、どのような工業団地があるのか、実際にこの目で確認できた。

会社によっては、私のような人間に対する対応の仕方に差があることもわかった。

何より、敗北を重ねながらもすべてを訪問したという結果は、私に残った財産である。

 先日、この地図を開いて見た。

当時を思い出し、思わず笑いがこみあげてくる。

今でも、平均月1回のアポなし訪問を続けている。

もちろん成功するなんて思っていない。

今も敗北の連続である。

 しかし、このアポなし訪問の失敗のお陰で、年間契約を結んで頂いているお客様や、短期でもお仕事をくださるお客様のありがたさを、都度、実感できている。

この気持ちをいつまでも持ち続けるために、今後もアポなし訪問は続けていく。