・・最近、「中小企業経営者や管理者」にむけて、本を書きました。
これは、そのまえがきの部分です・・
「うちの作業者は、ほんとうによくやってくれるよ。さっそく現場を見てもらいましょうか」
コンサルティングご依頼の打診があり、最初にお客様の会社を訪問したとき、中小企業経営者の方々からよく聞くことばです。
経営者ご自身からも、作業者に対する信頼感がうかがえます。
案内された現場を見て感じることは、たしかに現場の作業者の方々はたいへん忙しそうにされ、よく動いています。
ですがよく見ると“ムダ”と思える動きが実に多いのです。
例えば、
歩きまわったり、だれかと話をしたりされています。
図面や資料(部品リスト)等を探されているのですが、同じようなものが何枚も重ねられていて、なかなか必要なものを見つけられません。
(ファイリングが出来ていないのです。)
次に台車を探し出し、これを押して倉庫へ行き、そこで欲しい部品を探していますが、なかなか見つけることができません。
(台車や部品の置き場所が、明示されていないのです。)
(また置き場所もひんぱんに変わるのです。)
やっと探し出しても、今度は部品を台車に載せ作業場へ運搬します。
そこで台車から部品を降ろし、空になった台車を元の場所にもどし、再び自分の作業場へ戻ってきます。
やっとここから作業が始まります。
いったいここまでどれ位の時間が経過しているでしょう。
また、数名の作業者が並んで、同じ作業をされています。
ですがよく見ると、部材の置き方や作業方法が、全員違うのです。
これでは作業者によって、完成までに費やす時間も違ってきます。
1日のスパンでみると生産数に大きな差ができ、納期に影響をおよぼします。
また作業方法が違うので、完成品品質のバラツキも大きくなります。
そうです、作業者に対する作業指導ができていないのです。
作業者にまかせっきりなのです。
作業者は、正しい作業方法を教えてもらっていないため、独自のやり方で作業をしているのです。
「よく“動く”こと」と「よく“仕事をする”こと」は、まったく違います。
しかし、これは作業者のせいではありません。
このような仕事をさせている経営者や管理者に責任があります。
経営者や管理者が“ムダ”な動きをさせ、ある時は“不安全”な労働環境下で作業をさせ、“不良品”が発生し易いやり方で作業をさせているのです。
作業者の方々は、ただ自分の考えた通りにしているだけです。
与えられた設備や道具を使って。
この様な作業者は、自分たちが毎日造っている製品を買ってくださる、お客様のことを知らないのではないでしょうか?
自分が作業する仕事の目的さえも、知らないのではないでしょうか?
もしかしたら、自分の存在感さえ自覚できていないのではないでしょうか?
見学を終え、そんな気持ちになります。
(だからコンサルティングを依頼されたのでしょうが)
仕事上、中小企業経営者の方々から様々な相談をお受けします。
最近とくに多いのが売り上げの減少と対応策について、さらに4月から導入された消費税増税をいかにして吸収するかです。
消費税増税も大切なのですが、まず、受注の確保(取引の継続)が先決です。
売り上げが減少すれば利益は確保できなくなり、やがて会社存続の危機的な状況におちいります。
では、親会社や取引先から「取引を依頼される会社」と「取引を断られる会社」の違いはどこにあるのでしょうか。
一つは「よく“仕事をする”会社」と「よく“動く”会社」の違いです。
「よく“仕事をする”会社」が、親会社や取引先からの信用を得、仕事を受注できるのです。
ここに気が付いていない経営者や管理者がたくさんいます。
では、「よく“仕事をする”会社」とはどのような会社でしょうか。
私は、製造業経営コンサルタントを生業にしており、年間30社ほど国内・外の企業を訪問させていただいております。
このうち、1/3ほどは大企業も含まれます。
訪問する会社のほとんどが、それぞれの業界で確固たる地位を確立されています。
当然顧客数も多く、勢いのある会社です。
正直に申しますと、時には期待外れの会社もありますが・・。
この様な会社には、見学で気づいたことを改善案にまとめて、お礼の手紙に添えて送付しています。
訪問先ではまず経営陣の方々から、時には経営者ご本人から企業の考え方や企業理念、具体的なオペレーション等のお話を拝聴し、実際にモノづくり現場を見学させていただいております。
この経験から「よく“仕事をする”会社」について共通して言えることは、
(1)先ず企業に明確な“理念”があります。
(2)次に、この“理念”をつきつめて実践する“方針”なり“戦略”があります。
(3)そして、この“方針”や“戦略”を実践する具体的な“オペレーション”があります。
(4)さらに大切なことは、自分たちの方向性をしっかり見定め、目標へ向かって全員が一歩一歩、着実に歩まれているということです。
何年も何十年も自社の理念を追求し続け、中にはその活動自体が企業文化へと昇華している企業もあります。
その取組には、モノづくりに特化したもの、品質にこだわりをもったもの、人材の育成に注力したもの等々、企業によって様々です。
モノづくりに特化した企業の例をあげますと、受注・生産・出荷までの流れのなかで、いかにしてお客様の注文のタイミングで素早く生産するかを追求されています。
品質にこだわりをもっている企業では、設計品質・部品品質・生産品質・物流品質・外注品質・サービス品質に、独自の検査機器を用いて測定し、データを保存し、改善に挑戦されています。
また人材育成を進めている企業では、ジョブ・ローテーションを頻繁に行い、若手に責任ある仕事を任せながら、先輩や上司が若手を完全にサポートする体制を継続されています。
この様な会社が、親会社や取引先から「取引を依頼される会社」となって生き残っていくのです。
昨今、多くの企業で“理念”、“方針”・“戦略”、“スローガン”、具体的な“オペレーション”等を見ることができます。
それは工場を見学した際、初めに通された会議室やモノづくり現場の掲示板など、よく目に付く場所に掲示されています。
しかし、「理念経営」の推進は同じでも、親会社や取引先から「取引を依頼される会社」と「取引を断られる会社」とでは、先の(4)に記した部分に大きな差があります。
「取引を依頼される会社」は、「理念経営」の推進と同じように重要で、「理念経営」を推し進めるもう一つの経営手法を、着実に推進していることです。
それが「改善経営」です。
「取引を断られる会社」は、「改善経営」への取り組みが十分ではありません。
二つは「改善経営」への取り組みが弱いのです。
これは一般の中小企業の経営者や管理者が、苦手とされているところです。
その理由の一つに、改善は難しいという固定概念を持たれています。
改善には、専門知識が必要だと思い込まれているので、「改善経営」に着手出来ないでいます。
しかし、本当にそうでしょうか?
私が企業を訪問し、モノづくり現場を見学し、中小企業の経営者や管理者の方々とお話をしていて気付いたことは、
(1)現場の問題に気が付いていない。
(2)問題の根本原因が把握できていないため、真の解決に至っていない。
(3)問題に気がついても、放置している。
(4)問題の解決に取り組んでも、中途半端で終わっている。
と言うことです。
親会社や取引先から「取引を依頼される会社」になるために、取り組まなければならないのが「改善経営」なのです。
そして、その「改善経営」を推進する主体となるのが作業者であり、現れる成果は彼らのレベルに比例するのです。
もっと言うと、作業者のレベルが仕事のレベルとして現れ、仕事のレベルが会社のレベルとして現れます。
21世紀に入り、経済はますます多様化し複雑化していて、企業が取り組む課題もそれぞれに複雑になり難しくなっています。
中小企業の経営者や管理者は、この様な状況に対応するために、自社独自の「改善経営」に積極的に取り組むべきです。
そして、その中心は「人=作業者」です。
「改善経営」を継続的に実践する過程で、「人=作業者」を教育しレベルアップを図っていかねばなりません。
本書では、親会社や取引先から「取引を依頼される会社」になるために、「改善経営」の進め方について、即実践に役立つよう具体的に説明しています。
「成果をあげる者は仕事からスタートしない。計画からもスタートしない。時間からスタートする。時間は成果の限界を決める」と言う言葉があります。
どうか皆様が本書の実践によって、「取引を依頼される会社」になりライバルに圧倒的な差をつける会社となって、今後益々繁栄されますようにと願っております。
平成26年度6月吉日 株式会社 Big Gain (ビッグ ゲイン)
代表取締役 小 田 久