≪T社の指導を終えて≫
先月末で15ヶ月間に亘ったT社の指導を終えた。
T社との出会いは、昨年の夏、N商工会議所の依頼で行った私のセミナーである。
このセミナーにT社のF社長が出席されていた。
最前列に陣取り、怖い顔で私を凝視されていた。
幾つか質問もされたので覚えていた。
この出会いがきっかけで、その後、T社のお手伝いをすることになった。
T社の事業内容は、住宅用玄関ドアーの生産がメインである。
15名の人員で残業をやりながら、約60枚のドアーを日々生産している。
ドアーは、縦横の長さの変化、小窓やがらりの有無、電子施錠の有無、片開き・両開き等、パターン化すると30を超える。
これらを、
1.アルミ形材の切断、加工
2.力骨の組み立て
3.ハニカム切断、組み立て
4.パネル切断、シャーリング
5.接着剤塗布
6.プレス
7.CNC加工
8.エッヂ組み立て
9.検査、梱包
という流れで、製造していく。
話を指導内容に戻す。
T社の指導は、製造部長と経験豊富なNさん(男性)を中心に進めた。
T社にはF社長の強烈な思いを込めた方針がある。
それは、
『日本に冠たる企業』を目指す
冠たるとは、オンリー1になること、エリアNo.1になることを言う。
この方針を達成するために、F社長から社内の各部門に指示が出された。
製造部門に対しては、紙面も最も多く、以下のような内容であった。
≪概要≫
1.製造力の向上・・・生産性143%UP (日産35枚から50枚へUP)
2.技術力の向上・・・作業者の力量を上げる
3.インフラの整備・・・スペースの増設、機械能力のUP
4.納期の短縮・・・生産計画を守る、適正在庫の見直し
5.品質力の向上・・・自社工場および協力工場の品質を向上させる
6.コスト力の向上・・・他の追随を許さないコストの実現
これらの要求事項をうけ、私は自分の役割を以下のように認識し、F社長に承認をいただいた。
≪取り組み内容≫
『製造力の向上による利益獲得』
とし、これを三つの戦略へと展開した。
Ⅰ 生産性向上とコスト削減による利益の獲得
Ⅱ モノづくり現場の管理力向上
Ⅲ 従業員のレベルアップ
これらⅠ~Ⅲの戦略を、さらに具体的な活動項目へ落とし込んだ。
Ⅰ について
(1)モノづくり現場の“モノ”の流れや“人”の動きをスムースにする
⇒「工程改善」に着手 (『3S+3T』の導入)
(2)作業のムダを排除する
⇒「作業改善」に着手 (IE:『時間分析法』の導入)
Ⅱ について
(1)“勘と経験”から“数値化”する仕組みづくりを構築する
(2)作業者の「実績時間管理」・・・非作業の内容を把握する
(3)「月別生産実績」の把握
(4)「現場長の心得(8ヶ条)」
(5)コンサルタントの知識経験を伝える・・・「理論と実践」
Ⅲ について
(1)作業者自らが“考え・気づく”習慣をつくる
15名全員の作業をVTR撮影し、作業改善をすすめた
(2)VTRを見ながら作業者を指導(気づいてもらう)
15ヶ月間に及ぶ詳細な活動内容は、守秘義務もあり割愛するが、ドアーの生産実績枚数についてのみ記述すると、
(目標) 35枚/日 ⇒ 50枚/日 143% UP
(実績) 35枚/日 ⇒ 61枚/日 174% UP となった
これは、工場の建設や新規設備の導入もさることながら、従業員の皆さんが自工程でのモノの流れや、自分たちの動線を改善したこと。
さらには、自分たちの作業を大きく改善したことも影響している。
実を言うと、今回の取り組みで、“他の追随を許さない原価力の構築”まで手を出したかったが、出来なかった。
生産性が大幅に向上したことにより、製造原価内の直接労務費に関しては、その分引き下げられたハズ。
しかし、材料費の削減には着手できなかった。
T社は、親会社より材料を支給されているため、材料費の削減に関する意識が薄いように感じていた。
支給材料は定尺物であるため、端材がのこる。
ここにも大きな原価削減の余地がある。
端材から小窓やがらりの部材が採取できる場合が多々ある。
生産量が増加すればするほど、ここには“お金が落ちている”ことになる。
「日本に冠たる企業」を目指す時、長期的な視点と同時に足元も見ていかねばならない。
親会社の絶大な信用やF社長の強いリーダーシップで、今後、売り上げは増加するだろう。
しかし、足元を見たとき、指導期間中に退職された、製造部長に代わるリーダーの育成が急務である。
今回指導したNさんが新工場長に昇格したが、彼の情熱や謙虚さは認めるも、その管理能力やリーダーシップは未知数である。
製造部長の退職が見えていたため、新工場長には指導期間中厳しい要求をしてきたし、私の持っているものを伝えてきたが、彼が成長するにはもう少し時間が必要だ。
どうか、新工場長を全員でささえ、「日本に冠たる企業」を目指していただきたい。
機会があれば、再度、貴社のお手伝いをさせていただきたいと思っております。
ありがとうございました。
おかげさまで、私もたくさん勉強することができました。
皆様の健康と、貴社のますますの発展を祈っております。