≪K先輩の突然の訪問≫
客先での打ち合わせ中に、胸ポケットの携帯電話がふるえた。
打ち合わせ後、駐車場で携帯電話を確認すると、久く会っていないK先輩からだ
。
連絡を入れると、今日、私の会社に来たいと言う。
その時、私は会社から車で約1時間離れた場所にいたので、帰社する時間を伝え、帰路についた。
K先輩は、いまベトナム(ホーチミン市)にいるはずでは?
帰国したとしたら、何時ごろ?
色々なことを考えながら、車は高速道路を降り、やがて会社へ着いた。
約束の時間より、30分くらい早い。
車を降り、事務所に入るなり先輩から、「あと5分で着く」と電話が。
事務所の外に出て待っていると、見覚えのある車が・・・(まだこの車に乗っているのか)。
車から降りた先輩はすごく元気そうだ。
日焼けしたのか、顔が黒い。以前より、お腹も出てる。(人のことは言えないが)
人懐っこい笑顔で、「突然すまんな~」。
口ではすまないと言いながらも、顔は笑っている。
この先輩とは、以前務めていたP社からのお付き合い。
同じ九州出身で、よく飲みにも行った。(いつも私が幹事)
とにかく、うまがあう。
エレベータに乗り、事務所へ案内する。
お元気そうですね、先輩。
「ベトナムの土産を持ってきた」。
コーヒーですか?
「コーヒーは無くなるから、無くならないものにした」。
ビニール袋を受け取ると、少し重くて硬い。
包装紙を解いていくと、中から出てきたのは、“アオザイ”を身にまとった4体の人形。
黄色、赤、緑、桃色の4色。顔がカワイイ。
右手を肩まで上げたポーズをとり、頭には小さめのとがった傘をかぶっている。
この先輩、身長も高く、デカくて、柔道三段の猛者。
以前、京都のスナックで比べたが、私の親指が先輩の小指位。
先輩のイメージから、人形は全く想像できない。
しかし、こういうところが、この先輩がみんなに好かれるところだと思う。
かく言う私も、先輩のファンである。
人形を事務所の本棚に飾り、少し離れて眺めてみる。
本棚が賑やかになった。
この時、私の脳裏に閃いたことがある。
昨年の夏のこと、この先輩から電話があった。
「お前の時間が空いているときに、俺の工場を診断してくれ、そして、アドバイスをくれ」。
「美味しい昼飯をおごるからな」。
ある夏の暑い日、私は電車で片道1.5時間かけて先輩の務める南大阪の工場へ出かけた。
一通り、工場をみせていただき、私は先輩に気がついたことを報告した。
すると彼は、「もうひとつの工場もみてくれ」と。
えっ、この暑い中を?
車で約20分の距離にあった工場、そこも診断を終えアドバイスをした。
そして、昼もとっくに過ぎたころ約束の昼食。
期待した豪華な昼食と思いしや・・・“冷やし中華”のみ。
えっ、これだけ?、電車も自腹で来たのに?
「次はもっと豪華にするから」・・と先輩。
思うに、これに“餃子”が付くくらいか?
勝手に期待した自分が甘かった。
今回のベトナム土産に対する要求は何?
ホーチミン市まで来て、現地の工場を診断しろというのか?
ベトナムでの武勇伝を聞きながら、一方で忙しいと予防線を張っていたが、先輩からは何の依頼も無かった。
ラッキー。
しかし、来週の初め、この先輩と同じ会社の人がわが社を訪問したいと言ってきた。
狙いは何?ホーチミン?工場診断?国内工場?
先輩、お願いです・・・せめて交通費はください。

【写真は、頂いたお土産の人形】