《B社・上海工場の事例 (その2)》

 ~『工場内の3S・見える化』の教育・導入・定着・継続~》

 

《先に、ちょっとした文化の違いを認識》

 

 具体的な活動報告の前に、見ていただきたい写真がある。

 
【写真は、工場の会議室から見た隣のアパート】

【写真は、工場の会議室から見た隣のアパート】

 

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【写真は、上の写真を拡大したもの】

 
  この2枚の写真は、工場の会議室から見たすぐ隣のアパートである。
 2枚目の写真は、1枚目を拡大したものだ。
 よく見ると、洗濯物を干す同じ紐に、さばいたばかりのアヒルが3羽干されている。
 写真撮影時は、洗濯物も濡れて重い為に気付かなかったが、夕方見てみると、乾いて軽くなった洗濯物が、干されたアヒルにまとわりついていた。
 
 また、この写真には写っていないが、アパートの住人と思われる女性が、2階のベランダに出てきて下にゴミを捨てた。
 この光景をたまたま見ていた私のアシスタントが、私を窓際へ呼び「あれを見て」と言った。
 「いま彼女が捨てたものは何だと思いますか」と、私に尋ねた。
 それは、無数の小さなもので、風にひらひらと舞ってゆっくり地上に落ちて行った。
 聞いてみると、向日葵の種の殻だと説明してくれた。
 女性は、向日葵の種を食べた後、その殻を2階のベランダから他人が住む1階へ捨てたのである。

 唖然としている私を見て、彼女は私に「これは、この工場を含め、近辺の工場に働きに来ている人達の普段の生活です」と説明してくれた。

 ここで言いたいことは,「乾いた洗濯物がアヒルに絡まって気持ちが悪い」とか、2階からゴミを捨てる行為に対して「なんてことをするんだ」・・・とか言う類ではない。

 このような事実が彼らの普段の生活であり、日常なのである。

 ここに日本人の道徳観を持ち込んでも、全く無意味なのである。

 まさに、『これも有りかな!』なのである。

 

 重要なことは、このような環境下で日本人出向者は、日々の生産活動や管理活動を進めていると言うことである。

 そして私は、『3S・見える化』と言う異文化であり、それまで全く経験のない未知の世界へ彼らを案内しなければならないのである。

 そんな中、12月吉日、日本からB社社長も訪中され、同工場の全従業員出席のもと、『3S・見える化』プロジェクトの決起大会が開催された。

 

 
《3Sの考え方・進め方》
 
  私は、工場見学後の印象や従業員教育が殆ど出来ていないという説明から、今回のプロジェクトの進め方をどのようにすべきか考え続けていた。
 そして、次のような結論に達した。
 それは最も初歩的なことだが、「真似をして覚えてもらう」を実践することだった。
 小さな子供が、母親からいろいろ教わりながら成長していく、これと全く同じである。
 『3S・見える化』を以下のステップで進めていった。
   [1]教育
   [2]導入
   [3]実施
   [4]継続

 

 《[1]教育について》
  同工場は、たまたま〇〇班という班別組織を採用していた。
 それは、この班毎に造る製品が異なっていたからである。
 この組織は、数人から十人くらいまでの従業員で構成されていたため、この組織単位で“勉強会”を何度も何度も開催した。
 先にも記したが、工場での生産活動開始以来、殆ど教育らしい教育が行われていないことを考慮し、“耳”からの情報収集以外に“目”からの情報収集にも重点をおいた。
 初回の“勉強会”は、全従業員を対象に以下の内容で進め、具体的事例としての“写真”を多用した。

 

   ①『3S・見える化』とは?
   ②なぜこの工場に『3S・見える化』の取り組みが必要か?
   ③『3S・見える化』を実施した場合の効果は?
   ④『3S・見える化』の実施順序は?
   ⑤『3S・見える化』の具体的事例(写真)

 

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 【写真は、プロジェクトの日程計画】
 
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 【写真は、従業員全員参加の勉強会】
 
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 【写真は、『3S・見える化』についての説明】
 
  私は『3S』について、企業のコンサルティングやセミナーの場においても、以下のように説明している。
 
 『整理』とは・・・・要るモノと要らないモノに分類し、要らないモノは廃棄する。
           要るモノは、いつも使用するモノ、あまり使用しないモノに分ける
 『清掃』とは・・・・(使った後は)次に何時でも使用できる状態にしておく
 『整頓』とは・・・・即座に取り出せるようにしておく
 そして『3S』は、『整理』⇒『清掃』⇒『整頓』の順序で実施すること。
 これは、私の持論でもある。
  しかし、現地の従業員は、この『3S』と言う言葉を初めて聞くのである。
 
 上記のような抽象的な言葉では、『3S』のコンセプトや実施順序を充分理解できないと考え、彼らに“洗濯物”を例に挙げて説明した。
  
  皆さんは、普段着ている服が汚れたらどうしますか?
 汚れたものは洗濯機にいれ、引出しから洗濯された服をだして着るでしょ。
 これが『整理』です。
 
 次に、汚れた服は洗濯し、乾いたらアイロンをかけて畳むでしょ。
 つまり、次に何時でも使用できるように準備をしている訳です。
 これが『清掃』です。
 
 最後に、畳んだ洗濯物を大人用や子供用の引出しに仕舞うでしょ。
 誰もが、直ぐに取り出せるようにしている訳です。
 これが『整頓』です。
  
 ですから、『整理』⇒『清掃』⇒『整頓』の流れで実施しなければなりません。
 そして、『3S』はなにも難しいことではありません。
  
 毎日洗濯をするように、普段皆さんが家庭で行っていることを、職場で実行していただければよいのです。
 私は、事あるごとにこの言葉を繰り返し説明し、『3S』のコンセプトや実施順序を浸透させていった。
  
  ここでは、敢えて『見える化』について説明をしなかった。
 『見える化』は、言葉では簡単だが実際は奥の深いコンセプトである。
 企業活動において、あらゆるものを『見える』ようにするのは、決して簡単なことではない。
 『見える』ようにすることは、企業の競争力を高める本質的な取り組みであり、これを全従業員が理解し、実施しなければならない。
  しかし、この工場で、今の段階で、このコンセプトまでも全従業員に理解してもらうには無理があると考えた。
 
 まず『3S』から進めていった。

(次回へ続く・・・)